コロナ禍によりテレワークが浸透したことで、クラウド化の流れをさらに大きく後押しし、企業規模に問わずインターネット上で利用できるクラウドサービスが主流となりました。近年ではERPにおいてもクラウド型のシステムを選択する企業が増えています。
この記事では、クラウド型ERPの導入メリットやデメリット、主な種類やオンプレミスERPとの違い、クラウド型ERPを選定する際の比較ポイントについて解説していきます。
クラウドERPとは?
ERPシステムとは、受注・販売・購買・在庫・勤怠など企業が必要な機能を1つのシステムで一元管理できるシステムのことです。それぞれの部門ごとにシステムを導入して管理する場合と比較すると、各部門の情報がリアルタイムに共有でき、経営の意思決定をスピードアップできます。同じ情報を2重3重と入力する手間が省けるため、ミスや確認作業も削減し、全体の業務効率が向上します。
クラウドERPとは、ERPシステムの中でもクラウド上で利用するものを指します。クラウドERPは、社内サーバーを用意する必要がなく、比較的安価に短期間で導入ができます。また、場所を問わずインターネット環境があれば利用することができます。ただ、種類によってはカスタマイズがしづらいというデメリットもあります。
かつてERPシステムは大企業を中心に普及していましたが、「クラウドERP」の登場でより安価に利用可能となり、中小企業でも利用する企業が増えています。
クラウドERPの種類
クラウドERPには大きく「プライベートタイプ」、「パブリックタイプ」、「ハイブリッドタイプ」の3種類があります。それぞれの特徴を解説します。
プライベートタイプ
プライベートタイプは、特定の企業だけが利用できる専用のクラウド環境で利用する形態です。AWSなどクラウドのデータセンター上で利用するので、クラウド型といえますが、システムはオンプレミス型と同じものです。クラウドの手軽さや、インターネット上で接続できるといったメリットは享受しつつ、自社が所有するシステムとして利用するので、自社業務に合わせてカスタマイズできることが特徴です。
パブリックタイプ
一般的にSaaSと呼ばれるサービスで、ベンダーが提供するサービスを複数のユーザー企業がインターネット上で利用する形態です。料金体系は月額料金や従量課金が一般的です。あくまでもシステムの所有者はベンダーであり、自由にカスタマイズはできませんがパラメータ設定などは可能です。
ERPを購入するのではなくレンタルするため金額を抑えることができ、システムのメンテナンスやデータバックアップなどを自社で行う必要がないことが魅力です。
ハイブリッドタイプ
ハイブリッドタイプとは、プライベートタイプ、パブリックタイプ、オンプレミスを組み合わせて連携し利用するタイプです。例えば、セキュリティの問題で機密情報を扱う基幹システムはプライベートタイプでの管理をする必要があるが、その他はパブリッククラウドで利用したいという場合や、拠点ごとにタイプを変更したい場合など、それぞれの特徴を活かして組み合わせることが可能です。
なお、拠点ごとにシステムを変更する形態を2層ERPと呼び、本社・支社間での円滑な情報共有を実現する方法として注目されています。例えば全社的にERPを導入したいが、全拠点をオンプレミスにするのは費用がかかりすぎるといった場合に、本社のみをオンプレミスで導入して、支社ではパブリックタイプを導入するなどのハイブリッドタイプを採用することが可能です。
オンプレミス型ERPとの比較
クラウドERPとオンプレミスERPは具体的にどのような違いがあるのか解説します。
カスタマイズのしやすさ
一般的にオンプレミスERPはカスタマイズ性が高く、自社の固有の要件に合わせてシステムを構築することが可能です。
一方、クラウド型ERPは前述したようにパブリックタイプとプライベートタイプがあり、パブリックタイプの場合、カスタマイズができないケースが多いです。そのため、標準機能ベースで自社にぴったり合うものを探すのが難しいという難点もあります。
クラウドERPのなかでも、プライベートタイプであればカスタマイズが可能なサービスもあるため、特殊な業界や業種など、一般的に提供されている機能では管理ができない等、カスタマイズが必要な企業の場合はオススメです。
ただし、ERPのカスタマイズは最小限にした方がよいケースもあります。カスタマイズを行うことで、導入コストもあがり、開発の期間も延びます。また、標準で提供されているフローがベストプラクティスと呼ばれ、一般的に最適なフローとなっていることもあるため、そのまま利用することで最適なフローをシステム導入で実現することができます。
運用・保守にかかる費用
オンプレミスERPでは自社でサーバー等の環境を用意するため、システムの運用や保守作業はすべて自社で行う必要があります。そのため、運用・保守にコスト(人材の確保も含む)がかかります。
一方、パブリックタイプのクラウド型ERPの場合は、クラウドプラットフォーム上にホスティングされ、運用・保守はベンダー側が行うため、自社で行う必要がありません。法改正などシステムの改修もベンダー側で行うため、負担が軽減されます。
導入コストや導入期間
オンプレミスERPは初期導入費用が高額になりがちです。また、オンプレミスERPは自社の資産になるため、導入費用は減価償却を行う必要があります。買い切りのため、何人で利用しても料金は変わらないので、利用人数が多い場合や今後増やす予定がある場合にはメリットとなるでしょう。導入期間はカスタマイズの有無によっても大きく変わりますが、数か月ほどかかることが一般的です。
一方クラウド型ERPは、利用範囲・人数など利用した分を月額利用料として支払います。初期費用だけでみるとオンプレミスERPよりもはるかに抑えられます。しかし、利用するサービスによっては長期的に利用するとオンプレミスERPの方が総額は安くなることもあるため、長期的な視野で検討することが大切です。 パブリックタイプでは原則カスタマイズはしないため、利用開始は数日で開始できることが多いです。
コスト発生のタイミングや会計上の取り扱い、利用開始までの期間がそれぞれ異なるので、自社の状況に合わせて選択しましょう。
クラウドERPの導入メリット
クラウドERPの導入メリットを紹介します。
初期費用を抑えた導入
第一に、コスト削減が挙げられます。クラウドERPは、自社でインフラを用意する必要がありません。そのため、オンプレミスERPと比較して、クラウドERPは導入期間も短く、初期費用が抑えられます。オンプレミスERPだと初期費用が数千万円かかることも珍しくありません。クラウドERPは初期費用が無料のサービスも多くあります。まとまった資金が不要なので、とくに中小企業やスタートアップ企業にとって利用しやすいです。
運用・保守のコスト削減
法令対応やシステムのバージョンアップなどの運用・保守はベンダー側で対応するため、自社で行う必要はありません。これにより、システムの老朽化リスクが軽減されます。運用・保守費用や専門知識を有した人材の確保が不要になり、運用・保守にかかる負担を大幅に軽減することができます。特に、中小企業やリソースの限られた組織にとって、これらのコスト削減は非常にメリットが大きいです。管理業務が少ない分ITリソースを大幅に活用することができます。
スケーラビリティも大きな利点です。事業拡大や業務量の変動に応じて、柔軟にリソースを調整することができます。これにより、過剰な資源投入や不足が起こるリスクを避けることができます。
場所を選ばず利用可能
クラウドERPはインターネット接続があれば場所を問わずアクセス可能なため、リモートワークや外出先でもデータの確認や入力ができます。また多くのクラウドERPは、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットにも対応しています。
場所を選ばずリアルタイムに正確な数字が確認できるため、生産性が向上し、業務効率も改善されます。
また、部門別や拠点ごとなど様々な角度でデータの集計ができ、見たい角度の情報がタイムリーに確認できる製品もあるので、経営判断の早期化にも貢献します。
属人化の解消
クラウドERPを利用することで業務を標準化し、属人化を解消することができます。担当者が休暇中に対象の業務が停止する、退職した場合に業務を理解している社員がいなくなってしまうといった問題が解決します。クラウド型ERPは、業務フローがわかりやすくなるだけでなく、業務の引継ぎが容易になります。また、誤りのチェックやシステムで自動化できる部分も増えるため、各業務に対する深い専門知識がなくても対応が可能になります。
BCP対策
クラウドERPはBCP対策にも貢献します。BCP対策とは、事業が災害などの緊急事態に直面した際にも事業を継続し、停止した場合も早期復旧できるような対策をすることです。クラウドERPは外部のデータセンターに機密情報を保管します。インターネットを介すことや、自社でセキュリティの管理ができないことから、セキュリティが弱いというイメージを持たれることの多いクラウドですが、データセンターは災害に強い地域かつ物理的にも災害対策のされた場所で管理されているため、自社にサーバーを保管するよりも安全である場合が多いです。また、複数の拠点にサーバーを分散することでリスクを下げることが可能です。
クラウドERPの導入デメリット
クラウドERPは多くのメリットがありますが、デメリットもあります。導入の際には以下に注意すると良いでしょう。
カスタマイズ性の低さ
パブリックタイプのクラウドERPは、どの企業も同じサーバーにアクセスしサービスを利用するため、基本的に個別のカスタマイズはできません。カスタマイズができたとしても、高額な費用がかかってしまいます。ただし、製品によってはパラメータの設定が柔軟にできるものもあります。自社に必要な業務が実現できるかを確認しましょう。
セキュリティへの懸念
クラウドERPは機密データを外部のサーバーに置くので、自社でセキュリティがコントロールできません。そのため自社のセキュリティ要件を満たしているかはチェックが必要です。導入時には、各ベンダーのセキュリティ対策を十分に比較検討し、安心して利用できるようにしましょう。
インターネット環境の影響を受ける
クラウド型ERPはインターネット経由で利用するので、インターネット環境のないところでは使えません。また、インターネット接続が不安定な場合、その影響を受けてしまいます。自宅や営業先など社外からERPを利用する場合、その場所のインターネット環境によっては接続が難しい可能性があります。
モバイルWi-Fiルーターを利用するなどの対策を検討する必要があります。導入前に自社の業務にあっているかよく検討しましょう。
サービスが提供企業に依存
パブリックタイプのクラウドERPはシステムの更新をすべてベンダーが行うため、サービス内容がベンダーに依存します。アップデートによりシステムの仕様が変更され、これまでできていたことができなくなる、使い勝手が悪くなるといったことはよくあります。
また、システムのトラブルで一時利用できなくなる、ベンダーがサービスを終了するといったこともあり得ます。そのような事態が発生した時のベンダーの対応内容については事前に確認しましょう。
契約の際には十分にリスクを確認したうえで対策しておく必要があります。
クラウドERPの選び方
クラウドERPを比較検討する際にはシステム導入の目的と、自社で必要な機能や利用人数などを明確にしておきましょう。この章では選定時に確認したいポイントを紹介します。
自社が求めているライセンス体系やプランがあるか
クラウド型ERPは製品によって料金体系が異なります。ユーザーライセンスの場合は、ユーザー数に応じて費用が変わるため、利用人数が少ない場合はコストを抑えられます。利用人数が多い場合や、今後大幅に増える予定がある場合は利用料金が高額になる可能性があるので注意が必要です。
コーポレートライセンスであれば、ユーザーが増えても料金が一定のため、利用人数が多い場合は長期でみると安価になる、費用の計算がしやすいなどのメリットがあります。自社にとって最適なライセンス体系があるのかを確認しましょう。
コストが合っているか
クラウドERPは導入時の初期費用がかからないものが多いです。しかし、オプションの追加や初期データ設定やマスタ登録の作業費用など導入費用が発生する場合もあります。 また、月額費用は利用する機能範囲やデータ量、サーバーのスペックなどによって変わることが多いです。月額利用料金にはシステムの不具合時の対応や利用に関するサポートの保守費用も含まれます。各社より初期費用やサポート費用などの基本料金、月額利用料金の見積もりを取り、比較検討しましょう。
必要な機能があるか
自社にとって必要な機能があるか、その機能面は十分かを確認する必要があります。そのため、ベンダーの検討をする際には事前に自社の業務フローを作成し、業務の洗い出しをしましょう。そして、マストの要件、必須ではないが欲しい機能など、優先度を整理する必要があります。自社の業界に特化したクラウドERPは、業界特有の細かい機能が網羅されている可能性が高いのでオススメです。
また、検討プロジェクトのメンバーには可能な限り、様々な部門・役職の方が参加することで、それぞれの立場から利用イメージを持ってもらえるので、トラブルなく導入後のスムーズな導入に繋がります。
カスタマイズ性
自社の業務に完全に合うシステムを見つけることは難しいです。そのため、もし不足している機能があった場合に、運用で回避できるのか、他システムで補うのか、システムをカスタマイズして対応できるのかは重要なポイントです。
特にパブリックタイプのクラウド型ERPは、カスタマイズができないものが多いため、どうしてもカスタマイズが必要な場合には、プライベートタイプのクラウドERPを検討することも一つの方法です。
また、現状利用しているシステムを継続し利用する場合は、そのシステムとの連携ができるかどうかも確認しましょう。
信頼できるベンダーか
クラウドERPは会社にとって非常に重要な情報を管理するので、もしサービスが突然止まってしまうと業務がストップしてしまう可能性もあります。障害発生時にどのような対応をしてもらえるのかは事前に確認すべきポイントです。
また、クラウドERPのサービスはベンダーに依存するため、会社の倒産や急なサービスの提供終了などにより、利用が継続できなくなる可能性があります。このリスクを少しでも避けるために、クラウド型ERPを選定する際には、ベンダーの財務諸表などを確認し、健全性や安定性をチェックしましょう。評判や過去の導入実績なども参考にすると良いでしょう。
セキュリティ
クラウドERPは外部のサーバーで管理する構造上、情報流出のリスクがあります。ERPで管理する情報は、機密情報なども多く含まれているため、契約しているサーバー会社やその稼働率、サービスのセキュリティ対策の有無を確認しましょう。また、ベンダーのセキュリティ対策レベルや、ISMSやプライバシーマークなどのセキュリティ関連の認証の取得有無を確認することで、セキュリティ面で安心してサービスを利用できます。安心できるベンダーを選定して、自社の重要なデータを安全に保護しましょう。
クラウド ERP システム「MA-EYES」
当社、株式会社ビーブレイクシステムズが提供するクラウドERPシステム「MA-EYES(エムエーアイズ)」は、多くの企業に採用されている実績のあるERPソリューションです。MA-EYESは、導入形態やプランを複数用意しており、様々な規模の企業様にご利用いただいています。柔軟なカスタマイズ性と豊富な標準機能を備え、多様なニーズに応えます。
特にプロジェクト管理と販売管理に特化していて、システム開発業、SES、派遣、コンサルティング、広告業に多く導入いただいております。
また、MA-EYESはプロジェクト管理、販売、購買・経費、勤怠・工数、在庫管理、入金・支払などの総合的な業務機能をカバーし、クラウド環境での利用により、初期コストや運用・保守コストの軽減も実現できます。
実際にMA-EYESを導入した企業の事例紹介も多数あります。
まとめ
企業の基幹業務の一元管理においては、インターネット上で利用できるクラウドERPが主流になってきました。
クラウドERPは、オンプレミス型では必要だった大規模なハードウェア投資が不要となり、従来のオンプレミスERPと比較して導入が迅速に行え、初期コストの削減が期待できます。以前は大企業が導入するイメージが強かったERPですが、クラウドERPの登場で導入のハードルが下がり、中小企業での導入も増えています。
ERPの導入により、属人化の解消や、業務効率の改善、経営判断の早期化など多くのメリットがあります。導入検討時にはしっかり情報収集を行い、自社にあったサービスを見つけましょう。本記事がこれからクラウドERPを検討する方にとって少しでも参考になれば幸いです。
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